2014年7月アーカイブ


6月29日に行われたサンデー・マティネ・コンサートVol.127の様子をライターであり、市民サポーターでもある才目さんによるレポートでお届けします。
 
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2014年6月末開催のサンデー・マティネ・コンサート(サンマチ)は、イタリア・バロック音楽を特集したミニコンサート。
近年、古楽や古楽器の静かなブームが続いていますが、せんがわ劇場がバロック音楽を取り上げるのは2009年7月、2011年12月に続き、3回目となります。
久々の好評企画をお待ちかねのお客様も多かったようで、今回もおかげさまで早々に満員御礼。
躍動感あふれるオリジナル楽器の演奏と古楽唱法に、心身ともに癒されるひと時となりました。
 
 

演奏してくださるのは、ソプラノの井上由紀さんを中心に、リコーダー、ファゴット担当の古橋潤一さん、ルネサンスハープとオルガン担当の能登伊津子さん、バロックチェロ担当の松本亜優さん。
主要な古楽演奏会でお馴染みの演奏家の皆さんに、桐朋学園大音楽学部研究科在学中の松本さんが加わった素敵なアンサンブルです。
 
●400年の時を一気にタイムスリップ
 
開幕早々、「アヴェ・マリア」で知られるジュリオ・カッチーニ作曲の声楽曲「泉に、野原に」が演奏されます。
 
爽やかでハツラツとした曲想に、井上さんの艶のあるソプラノの声が躍動します。
ルネサンスの晴れやかな風が、ジメジメした日本の梅雨空をさーっと吹き飛ばしてくれるかのようです。
ちなみに、この曲は1614年の作曲と伝えられます。21世紀から17世紀へ、音楽に乗って400年の時を一気にタイムスリップしたような感覚です。
 
ルネサンス期からバロック時代へかけて音楽や楽器は大きく変わり、発達・進化していきました。今回のサンマチでは、そうした進化を牽引した作曲家の作品が紹介されます。
 
2曲目はジョバンニ・ピッキ作曲の「カンツォン 第2番」。
歌ごころあふれる古橋さんのリコーダーにオルガンとチェロが寄り添い、「西洋音楽の原型」を楽しく豪華に聴かせてくれます。
 
続いて、リュートの作品を数多く残した作曲家カプスベルガーの歌曲「かつては笑っていた」と、サラモーネ・ロッシの器楽曲「ソナタ 第3番」の演奏です。歌曲については、井上さんが歌詞の日本語訳を朗読・紹介してくださいます。
 
●味わい深い古楽器の世界
 
舞台に並んだ古楽器にも関心が集まります。古橋さんが演奏するリコーダーは、ルネサンス/バロック期のものを再現した木製リコーダーで、音の高さによりテナー/アルト/ソプラノ/ソプラニーノなど数種類あるそうです。同じく、木管リード楽器であるファゴットの原型を楽器内部の構造も含めて紹介されました。
 
能登さんが弾くオルガンは「ポジティブ・オルガン」と呼ばれ、モーター駆動による送風で本物のパイプを鳴らす本格的なパイプオルガンです。劇場が礼拝堂になったかのように、格別に深い通奏低音が響きます。
 
また、「ダブルハープ」とも呼ばれるルネサンスハープは、ペダルの技術が未開発のため、ピアノの白鍵にあたる弦と黒鍵にあたる弦を二重に張ったもの。半音階を自在に弾きこなすには相当な修練が必要です。
 
松本さんが弾くガット(羊の腸)弦を張ったバロックチェロも現代のものとはかなり異なり、奏法も難しい楽器です。いずれの古楽器も今日では改良され廃れてしまいましたが、優しく味わいのある音色は一聴の価値あるものばかりです。
 
しばしの白日夢に陶酔した1時間

中盤、ふたたびカプスベルガーやピッキの曲を歌唱・演奏した後、終盤はタルクィニオ・メルラ(メールラ)の曲が続けて演奏されます。メルラはバロック初期に音楽形式の発達・成熟に大きく貢献した作曲家として知られます。

「シンプルだけど包み込んでくれるようなメロディのメルラの曲は、当アンサンブルの大のお気に入りです」と井上さん。素朴な恋心などを歌った歌曲の訳詞を紹介されたあと、「そんなふうに思うなんて」「ソナタ 第2番」「可愛い歌を聴いておくれ」の3曲を演奏。

エンディングは、演奏者が一人ずつ舞台を去っていき、最後に古橋さんがリコーダーを奏でながら舞台を後にするという心憎い趣向。イタリア・バロック音楽の余韻が漂う中、観客はしばし白日夢でも見ていたかのような気分にさせられたのでした。

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日本が鎖国体制に入る前、西洋音楽は日本でも親しまれていました。織田信長は安土城でいわゆる「南蛮音楽」を聴いていましたし、1590年に天正遣欧少年使節が西洋の楽器・楽譜・印刷術など多くの音楽資産を持ち帰ると、京都聚楽第で豊臣秀吉は使節団の演奏を大いに喜んだと伝えられています。


古楽の世界を、実に生き生きとした生演奏で体験する。音楽史の文献をいくら読んでも、この体験は得られません。イタリア・バロック音楽を特集した今回のサンマチ。戦国の武将たちも親しんだ古楽に触れ、「西洋音楽の原点」を再発見する。音楽ファン・歴史ファンにはたいへん贅沢な企画だったといえるでしょう。


(取材・文/ライター 才目)